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大阪家庭裁判所堺支部 昭和42年(少ハ)10号 決定

本人 Y・R(昭二二・一〇・二三生)

主文

本件申請を却下する。

理由

一  本件申請の要旨は、「本人は昭和四〇年一月六日大阪家庭裁判所堺支部において、虞犯窃盗保護事件により中等少年院に送致する旨の決定を受けて加古川学園に収容され、昭和四一年一月二〇日仮退院を許されたが、その後も素行改まらず、犯罪者予防更生法に定める遵守事項に違反する行動があつたため、同年六月四日、同支部において、昭和四二年一〇月二二日まで中等少年院に戻して収容する旨の決定を受け、奈良少年院に収容された者であるが、その知能は魯鈍級に属し、欲求に対する抑制力乏しく言動は即行的であり、ために入院後暴行、喫煙その他の反則事故をくり返し、教官及び同僚に対し抗争的言動を示すこと多く、同年九月二五日現在の処遇段階は一級下、得点は一九八点であつて、同少年院が退院に際し必要と定める得点(概ね二六五点)に到達するまでにはなお約二箇月間を要するものとみられる。また、家庭の保護状況も良好とは言えず、本籍地に在住の実父母は退院時の引受につき拒否的であり、大阪府堺市に住む叔父夫婦が一応引取の意思を示しているものの本人の在院中一回の面会、通信すらなく、やむを得ず引受けるとの態度が見受けられる。右を要するに、本人はその犯罪的傾向が未矯正であつて退院させるに不適当であるから、少年院法第一一条第二項により、前記戻収容決定に定める期間満了の翌日以降なお引き続き二箇月間収容を継続すべき旨の決定を求める。」というにある。

二  本件は、戻収容による在院者に対し収容継続を求めるものであるから、その可否につき検討する。

少年院仮退院中の者が遵守事項を遵守せず又は遵守しない虞れがあるとき、これを再び少年院に収容することは、保護処分執行の次元における問題であるから、本来的には執行機関においてなし得べきことと解せられ、しかも保護処分の本質に即してみれば、これを不定期として然るべきものと思料される。しかるに、犯罪者予防更生法第四三条第一項は、戻収容に関する判断を裁判所に委ね、しかも裁判所が収容すべき一定の期間を定むべきことを要求しているのであつて、このことは、戻収容が一旦仮退院による社会復帰を許された者を再び収容して自由を拘束し、その人権に重大な影響を及ぼす一面を有するために、法がかかる場合における本人の人権保障に深く意を用いて、右の方法、限度を定めることにより保護目的の達成と人権保障という二個の理念の調和を図つたものと解せられる(これに反し二〇歳未満の者に対する戻収容決定においては、一定の期間を定める必要がなく、少年院法第一一条第一項により処理すれば足りるとの見解も存するが同条項は同法第一条以下との対比、第一一条第二項以下との関係からみて、通常の保護処分としての少年院送致決定により収容された者に対してのみ適用され、戻収容については更生法第四三条第一項が特別規定として適用をみるものと解されるから、期間の決定は本人が二〇歳未満であるとこれを超えるとにかかわらず常に必要的というべきである。)従つて、戻収容決定において定められた期間は、本人を少年院に収容し得る最大限を画するものとして遵守さるべくその期間を満了するときは、処遇の成果如何にかかわらず本人を退院せしむべきであつて、かく解することが更生法四三条第一項の法意に副うものと言わなければならない。また、収容継続に関する少年法第一一条第二項には「前項の場合において」とあるところ第一項は通常の保護処分による在院者に関する規定とみるべきこと上記のとおりであるから、第二項にいう在院者も同様戻収容による在院者を含まないこと文理上明らかであり、かかる在院者に対する収容継続は法文上の根拠を欠くと言わざるを得ない。

よつて、本件申請はその実質的理由につき判断するまでもなく不適法としてこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 田川雄三)

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